おしまいに


脇道映画館 〜わたしのジブリ〜編集者/柏子見

アニメが好きかと聞かれると、特に好きという訳でもない。
恐らく僕らの世代がアニメと共に育って来たため、身近過ぎたんだと思う。
メディアはTV全盛期で、あとは本と映画、漫画。
今と違ってコンテンツに飢えていた。
実写だろうがアニメだろうが、内容が面白ければ表現方法なんて何でも良かった媒体意識低い系世代なのだ。

ただ唯一、アメリカのアニメ、特にトムとジェリーは別格だった。
当時の日本のアニメはいわゆる「動く漫画」だったが、
トムとジェリーは、キャラクター、動き、音楽全てが実写でも漫画でも表現できない世界だった。
子供心に、やはり肉食ってる国はスゴイな…と感じていた。

初めて見たジブリは「となりのトトロ」だった気がする。
多分20代半ば。
子供向けアニメだと思っていたので見る気は全く無かったが、たまたま声優で出ていた糸井重里がラジオか何かで、これはスゴイ映画だから大人も是非見て欲しいと言っていたので「じゃ騙されたと思って…」という感じで見た。

ちょっと衝撃だった。

出てくるキャラクターは、アルプスの少女ハイジやルパン三世など、子供の頃から見慣れた顔だったが、
背景の美しさ、ディティール、人間の動き、特に海瀬くんも書いていたが植物の緑、発色が素晴らしかった。

僕の中でアニメがカルチャーに昇華した瞬間だった。

その後、数十年に渡ってジブリのアニメ映画を見続けているが、
常に一定の成果を出しているのはスゴイと思う。

今回の実験室で知りたかったのは、
「年代によってアニメの捉え方ってどう違うんだろう?」
「そして何十年にも渡り一定の結果を出し続けられる秘訣ってなんだろう?」
という2点。

いまやアニメと言っても幅広いので、ジブリという物差しで限定することで、見えやすくなるのでは無いかと思った。

しかし今回やってみて、驚いた事が2つあった。

ジブリを作品を見ていない層がかなりあるのだ。
最終的に社内アンケートを取ってみたが、「あまり見ない」「ほとんど見ない」という人が43%!

また7割の人が映画館よりTVで見ている…

かなり予想を裏切る結果だったが、恐らくこれは世の中の縮図なんだろうと思う。

そしてもう一つはジブリの組織変遷。
Wikiで沿革見てみたら、池井戸潤あたりが小説にしたら日曜劇場でドラマ化されそうな、様々な思惑渦巻くかなりカオスな歴史がそこに…
具体的には分からないけれど、よくこんな状況で日本を代表するアニメ作品を生み出し続けられたなと感心する。
宮崎駿をはじめとする監督のパッションと、それを支えるスタッフの努力の賜物だと思うのだが、その苦労は作品から伺い知ることはできない。

ジブリも今、大きな転換期に来ている思う。
日本のアニメの歴史を支え、組織の求心力だった巨星が消えゆく中、その大きくなりすぎた期待にどう応えて行くのだろうか?

昨年、「鬼滅の刃」の映画が「千と千尋の神隠し」の興行収入を抜いたという象徴的な出来事があった。
これからもヒット作品は出るだろうが、一人の監督の名前で何十年も作品が生み出される事は、もう無いのではないかと思う。
でも3Dを駆使した斬新なアニメ手法は凄いと思うのだが、あの「トトロ」見た時の感動は無い。
齢を取ったせいかも知れないけれど…

ここ数年、世の中が新しい価値観で動き始めている事をひしひしと感じる。
その価値観について行けず、肯定も出来ない自分がいる。

昔、何かの記事で宮崎駿氏が「風の谷のナウシカ」を作った時のエピソードを語っていた。
映画化したくて、色々なところに掛け合ったが全く相手にされず、
しょうがないからアニメ雑誌にコツコツと連載し、数年がかりでやっと映画化にこぎつけたという話。

これを読んだ時、あんな物凄い才能のある人でも思い通りにならない事があるんだと驚いた。
それ以来、辛い事や上手く行かない事があると、その話を思い出して自分を励ましたりする。

だからこの新しい価値観ってヤツとも、時間はかかるかも知れないが頑張って折り合いをつけて行こうと思うのだ。
内藤くんが書いていた、鈴木Pの「どうにかなることは どうにかなる。どうにもならんことは どうにもならん」という言葉を胸に…

2021年4月28日
柏子見 友宏

公開日/2021年04月28日



関連記事