30 紅色 ver.2
「ドゥゥンンンンンンンンンムッッッ!!!!!!!!!!!」
自分の人生を振り返っても、あれだけの衝撃を受けたことはそうそうない。
あるとすれば、自動車学校の路上教習で後続車に追突された時ぐらい
(しかも運悪く3人一組の教習で私は後部座席に座っていた)。
そのくらいに不意打ちの衝撃というものは恐ろしく、そして長く記憶に残る。
2007年2月、大学生だった私はバンドメンバーと、
新栄のダイアモンドホールの地下にあるアポロシアターというライブハウスに居た。
演者として出番を控えてフロアでリハーサルを眺めていた。
一見、昭和のキャバレーのような老舗のライブハウス。
隣にある色褪せたソファでは、全員メガネをかけた4人組の若者らが疲れきった様子で眠っていた。
その後、自分たちのリハーサルを終え、またフロアに戻ったとき、その衝撃的なドラム音が鳴った。
下っ腹をえぐられるような、聴いたことがないほど強く、太い音だった。すぐにステージに釘付けになった。
あのメガネの男たちが立っている。
4人とも黒縁メガネ、白いポロシャツ、黒いスキニージーンズという出で立ち。
そして、続けざまに凄まじい音量のアンサンブルを奏でながら、
リハーサルとは思えないテンションと声量で歌う。
さっきまでソファで寝ていた人たちと思えないパフォーマンス。
衝撃を超え、もはや狂気すら感じるステージングを見せつけられた。
「何なんだこの人らは」。
壁に貼ってあった当日の進行表を見た。
彼らの名は、monobright(モノブライト)というらしい。
彼らが本番の舞台を、狂気的リハーサルのさらに数段階上のテンションで完走したことは語るまでもない。
叫ぶ、踊る、盛り上げる。
歌詞とメロディーがキャッチーで、テクニカルなギターフレーズとリズム体の安定感、
客席を扇動するトーク術…全てが抜きんでていた。
そのmonobrightがメジャーデビューを数ヶ月後に控えている、
という事実を後に知ったとき「これがプロになれるバンドの鳴らす音か」と妙に腑に落ちた。
以降、彼らはその印象的な衣装と楽曲で人気を得て、テレビや大型フェスへの出演のほか、
アニメ主題歌を手がけスターダムをのし上がる。
元ビートクルセイダーズのヒダカトオル氏をメンバーに迎えるなど話題性に事欠かず、
00年代後半~10年代のロックシーンを彩った実力派バンドであった。
残念ながら、2017年に活動休止を迎えた。
私がリハーサルで不意を打たれ、いま聴いても当時の衝撃が蘇るその一曲こそが、
『紅色 ver.2』である。
2019.7.26
内藤 友貴
公開日/2019年07月29日