28 Love Letter


脇道音楽堂 〜わたしの一曲〜編集者/柏子見

変態よりの天才が好きだ。
玉置浩二や、最近だとKing Gnuの井口理しかり。
秀でた芸術の才能をもつ人は、どこかでクレイジーな部分がある、
といわれたりするけれど、R.Kellyはまさにその典型だと思う。
日本ではあまり知名度はないものの、アメリカでは3度のグラミー賞受賞を誇る、紛れもないキングオブR&B。
90年代からヒット曲を生み出し続けている大御所で、
あのマイケル・ジャクソンに楽曲提供したこともある、とにかくスゴいアーティストなのだ。

ただ、それ以上に狂っていてヤバイ奴でもある。
一言でいうと、セックス・スキャンダルが多すぎる。
ここでは詳細は控えるが(彼の名前でググればすぐヒットする)、
かねてより被害女性からの声が後を絶たず、ついに昨年、
被害の実態を告発する「Surviving R. Kelly」というドキュメンタリー番組が放映されるまでに至った。
それを受けて世間は大炎上、SNSでは#MuteRKelly(R.Kellyを聴かない)というハッシュタグが流行り、
Spotifyは一時R. Kellyの全楽曲を削除、さらにソニーが契約を打ち切る…という悪いニュースばかり。
正直、好きだと公言しづらい。

これは今に始まったことではなく、セックスはR.Kellyの作風そのものだ。
「愛の伝道師」「Baby Making Musicの申し子」などの異名の通り、彼の曲は性的な表現のオンパレード。
曲中でセックスを時には宇宙に、時にはジャングルにたとえ、
和訳を見ると「官能小説を飛び越えて、これはもうギャグかもしれない…」と、
ファンでさえドン引きするほどだ。
わたしの音楽ライブラリーで「sex」と検索したところ、9曲中7曲がR.Kellyの曲だった。
タイトルだけでこんな具合だ。

今から15年以上前、わたしがR.Kellyにハマるきっかけになった
「Ignition(Remix)」という曲がバカ売れしていた当時も、
チャートで首位を獲っているのに本人は性的スキャンダルで拘留中だったような。

悪いところばかり書きすぎてしまったけれど、それでも、どうしても嫌いになることができないのは、
作曲と作詞において、やはり彼は紛れもない天才だから。
時代ごとにゴスペル、ヒップホップ、レゲエ、ソウルとその時々の要素を取り入れつつ、
それでいてR.Kellyらしさを失わず、語彙が足りなくて悔しいくらい、
それはもう、歌詞もメロディーも最高なんです。
これまでコラボしたアーティストも多く、Pharrell Williams、Kanye West、T-Painなどなど、
R.Kellyがきっかけで好きになった人も多数。
客演をきっかけに好きな音楽が広がっていくところが、R&BやHipHopの面白いところだ。

もちろん性的な作品が100%というわけではなく、エロを排除した穏やかな曲もある。
好きな曲がありすぎて「わたしの1曲」を選ぶのに悩んだけれど、
ここではキレイな方の曲を紹介しておきたい。

Love Letter / R.Kelly

ピースフルで美しいメロディー、優しい歌詞が心に響く。
本人に難があるのは重々承知しているけれど、曲を聴くと
「作品に罪はないよなぁ」とため息が出てしまう。

本当に、変態と天才は紙一重だ。

2019.7.11
関谷 知加

公開日/2019年07月11日



関連記事