9 A Lover’s Concerto


脇道音楽堂 〜わたしの一曲〜編集者/柏子見

「ひとは10代の時に聴いていた音楽を、一生聴き続ける」そういっていたのは、誰だったかー。

僕は音楽に詳しくない。
けれど、大学生の頃は、
SONYのMP3ウォークマンに取り込んだ雑多なジャンルの音楽を
まるで血流のように、いつも身体に循環させていた。
今回紹介するのは、その内の1曲だ。

Sarah Vaughan “A Lover’s Concerto”。1965年のナンバーだ。
恋人を思うピュアなラブソングなんだけれど、
僕は和訳歌詞を見るまで、もう少しネガティブな状況を描いた歌だと捉えていた。

哀しげな印象のヴァイオリンソロから始まり
シンプルで軽快なリズムと、Sarah Vaughanのどこまでも伸びやかな歌声へ続いていく。
互いに愛し合っているのに、何らかの理由で別れを選ばざるをえない恋人たちが
悲しくも笑顔で、運命を受け入れようと前を向くー。
そんな情景が、ぴったりなメロディだと思う。
この「泣き笑い」のような聴後感が好きで、僕はこの歌を今でもよく聴いている。

ちなみに、
A Lover’s Concertoの原曲は
あの音楽の父J.S.Bachの「メヌエット(ト長調)」なんだとか。
聴き比べると、確かに似ている。
メヌエットはピアノの練習曲としても有名だ。
幼い頃、姉が自宅で弾いていたのを原風景のように覚えている事も
僕がこの歌に愛着がある理由の一つかも知れない。

2018.10.10
弘嶋賢之

公開日/2018年10月11日



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