5 終わらない歌


脇道音楽堂 〜わたしの一曲〜編集者/柏子見

僕は人生の中にあまり音楽を持っていないので、
「私の一曲」と言われて思いつく曲は一つしかなかった。

THE BLUE HEARTS
「終わらない歌」

僕はこの曲を、多分深夜のテレビで聞いた。
16か17歳だった。体重は90kgあって、学校の休憩時間は寝たふりをして潰していた。
ひどい有様だった。いつも、どうにかしてどうにかなってやろうと考えていた。

「終わらない歌を歌おう」
「くそったれな世界のため」

たぶん、しょっぱなのこの言葉にやられたんだと思う。
田舎の根暗なデブが「ロックンロール」というものを聞いたのだから、
やられるに決まっている。言いたい事を全部言ってくれているような気がした。

次に日の学校帰りに、生まれて初めてTSUTAYAで映画以外のものを借りた。
アルバムをMDに入れて、家でも外でも聞いていた。

「終わらない歌を歌おう」
「僕や君や彼らのため」

世界をくそったれと言っているヤツが、自分のことを
「俺」じゃなくて「僕」と呼んでいる。
何となくそれが嬉しかった。

休憩時間は寝たふりしているようなヤツの立場から、
言いたいことを全部言ってくれているような気がした。

その言いたい事ってのは何だ、って聞かれて多分口ごもってしまうけど、
味方がいるような気がするのは、心強いことだった。

16か17歳から、18歳を過ぎて高校を卒業するまで、
僕はずっとブルーハーツの曲を聴いていた。

30歳になって、久しぶりにこの曲を聴いた。
恥ずかしいけど、やっぱりなんだか
言いたい事を言ってくれているような気がした。

というわけで、僕にとっての「私の一曲」。

2018.8.22
坂口 雄城

公開日/2018年08月22日



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