おしまいに


脇道書道場 〜わたしの一筆〜編集者/柏子見

小学生の夏休み、宿題で出された習字が上手く書けなくて困っていた。
見かねた母親が、お手本を書いてくれた。
母はとても字が上手く、習字も得意だった。
真似して書いてみたが、やはり上手く書けない…

そこで柏子見少年は、ふとひらめいた。
母のお手本に半紙を重ねて、輪郭を小筆でなぞってから塗りつぶしたのだ。 字は汚かったが絵は上手かったので、この作戦は大成功だった。
ただ、担任の先生が窓に習字を貼りつけるまでは…

光で墨の濃度の差が透けて、輪郭線がバレてしまったのだ。
もちろん先生からはド叱られた…

しかし、この行為が後にAdobeのアウトラインフォントの技術につながった事は有名な話だ……(笑)

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今回、何十年かぶりに嗅いだ墨の匂いで思い出したのは、そんなホロ苦い思い出と書道の難しさだった。

脇道書道場のテーマである「メッセージと書」で誰もがまずイメージするのが、
相田みつをではないだろうか?

実は今回、相田みつを的な作品が多いのではないかと思っていたが、その予想は外れた。

それは自分が書いてみて分かったが、あの文字は簡単に書けるようなものでは無いのだ。
計算されているとは思わないが、何千枚も書かないと到達出来ない領域の文字だ。
言葉は思いついても、あの文字は書けない。
相田先生、今まで舐めててごめんなさい。

あの人のメッセージはやはり書でなくては成り立たないと思う。
「にんげんだもの…」とフォントや細いペンで書かれても何も伝わって来ない。

筆で文字を書くという事は、情報を伝えるだけでなく「思い」を込める事だと分かった。
筆は太さを変える事ができるので、繊細な細字から力強い太字まで自由に書くことができ、
かすれも含め、そこに無限の表現が生まれる。

今回オフサイドスタッフは、まず何を書くか、次のその言葉をどんな風に伝えるか考え、
「思い」を込めて筆を走らせたのだと思う。
そんな目でもう一度読み返してもらえると新しい発見があるかも知れない。

オフサイドのスローガンも「オモイの先に一歩ふみ込む」だ。
筆と墨に込めたオフサイドスタッフの「オモイ」は皆さんに伝わっただろうか?

2020年7月1日
柏子見 友宏

公開日/2020年07月01日



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