30 内臓とこころ/生物と無生物のあいだ/人間科学講義


脇道堂書店 〜わたしの一冊〜編集者/柏子見

小学校に上がる前から本は僕にとって何か特別なものでした。
誰かが言うように「Open sesame!」 みたいなね。

学校は通信簿に採点するものを教えてくれますが、生徒が知りたいことを教えてくれると言うわけではありません。
本当に知りたいことは自分で学ばなければいけないと知ったのはずいぶん後の話ですが、学び方も自分の知りたいことも学校には無くて、本を開くと見つかることや、本に閉じこもることもできることを、なんとなく感じていたのだと思います。
と言っても大それた計画があるわけではなく、その時々の気分と好奇心に突き動かされて、何を求めているかも分からないままに、めったやたらに本を開いてきたに過ぎません。

脇道堂書店に紹介された本は、人それぞれに思い入れのある本ばかりですが、僕はどうも思い入れのある本を思いつきません。
凄く感動したり刺激を受けた記憶は残っていますが、それが誰の何という本のどんな内容だったかと言うことになると定かではありません。
そんな訳でここで紹介する本も、人生における私の一冊と言った類いではありません。
今の自分が興味を持って読んだ本です。

このごろ「シンギュラリティ」が話題になっています。
「AI」によるシンギュラリティは人類にとって3番目のものと言われます。

1番目は人が「時間」を知ったこと。

これは人がどこからどうやってなぜ存在しているのかをつい考えてしまったことであり、人間が立ち会うことはできなかったその始まりには、もはやこの世界にはいない何かが存在していて、そこから世界が始まり今の自分につながると考えるに至った、人が動物とちょっと違って過去と未来の狭間に、あるかなきかの今を生きる存在になったという人類史上の事件です。
人類は「時間」を意識することで、神話を生み、宗教を生み、哲学を生み、芸術を生み、歴史を生み、科学を生みました。
それは、生病老死を知り、愛別離苦をはじめとして煩悩を知ることでもありました。

2番目は「文字」を得たこと。

動物はコミュニケーションする動作や音声(表情・ボディランゲージ・鳴き声)を持っていますが、人は感情や言葉を「文字」に変換した事件です。
「文字」は、人が心に感じること脳で考えることを、時空を超えて他の人に伝えることを可能にする記号です。
人類は人が持つイメージや思考を伝える術として、消えていってしまう表情や言葉だけでは無く、何時でも他人と共有できる記号にして外部記憶装置に残し伝える方法を見つけました。

そして3番目は「AI」だろうと。

「AI」をどう説明して良いかまだ定説は無いのだろうと思います。
大雑把に言えば人間の脳を集積回路とアルゴリズムで人工的に創り出すことによる可能性の世界です。
人類の古今東西のあらゆるイメージと思考を記号化することにより、人の脳の限界を超えて全地球人の経験と知識と知恵のすべてに自らアクセスし学習し新たな知見を生み出す、人智を遙かに超える人工頭脳の時代が来ると予測するものです。

僕の生命もその一部であるに違いない、地球上の無数の生命体が互いに共存する仕組みを、これまでよく知ることも無く、また特別なものと感じる事も無く、70年余を過ごしてきたことは少々恥ずかしく思うものですが、「生きている」ということを知ろうとすると未知の世界が無限に拡がります。
猛烈な勢いで自己増殖するAIといえども、この生命のもたらす意志や感覚とかクオリアの不思議を超える存在になるのはなかなか至難のことに思います。
もしできたとしてもそれが解決する問題よりも、より多くの問題を人類は抱えるのでは無いだろうか・・・なんてことを思った「生きている」不思議についての文庫本3冊です。

 

「内臓とこころ」三木成夫 河出文庫

「生物と無生物のあいだ」 福岡伸一 講談社現代新書

「人間科学講義」養老孟司 ちくま学芸文庫

2018.2.23
安藤三郎

公開日/2018年02月23日



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