30 坊ちゃん


脇道堂書店 〜わたしの一冊〜編集者/柏子見

先生へ
お元気ですか?
今日は先生にごめんなさいが言いたくて筆を取りました。
給食のバナナを食べる先生がゴリラに見えて息ができなくなるくらい笑ったこと・・・じゃなくって、夏休みのあの宿題のことです。
中学校1年生の夏休みの最終日、真っ白な原稿用紙を目の前にして私の頭も真っ白でした。本を読むのは嫌いでなかったけれど読書感想文を書くのは本当に苦手だったんです。何を書けばいいのやらさっぱりで時間ばかりがいたずらに過ぎて行く。焦った私は宿題を終わらせたい一心であることを思いつきました。
2学期が始まってしばらくした頃に先生は私にこう仰いましたね「読書感想文良く書けてたな、学年の代表でコンテストに応募するから一度清書してこい。」
その時に私ね、早く宿題を片付けたいっていう軽い気持ちでしたことがとんでもないことだったって気が付いたんです。頭からバケツで氷水を掛けられたような気分でした。頭がカーッっとなって心臓がバクバクして先生の顔をまともに見られませんでしたよ。
先生ごめんなさい。良く書けていたのは当然です。だってそれ、前年度の最優秀賞に輝いた読書感想文ですもん。当時購読していた学習雑誌の付録だったんです。それを語尾だけ変えて丸写しして提出したんです。
それから何週間もモヤモヤしたまま過ごして、結局清書は提出しませんでした。私がずっと提出しなかったから、先生もどこかのタイミングで丸写しだって気が付いたのかもしれない。・・・いつしか先生も忘れてしまったのかそれから何も仰いませんでしたね。
「先生ごめんなさい。」その一言が言えなかったばっかりに、未だにどうしてもその本が読めません。
心臓の辺りがヒリヒリしてお腹の辺りから苦いものがこみ上げてくるけど、また頑張って読んでみようかな。 

夏目漱石の『坊ちゃん』を。

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坊っちゃん 夏目 漱石 (著)

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夏目漱石 坊ちゃん

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2018.2.8
猪上綾子

公開日/2018年02月08日



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