12 三毛猫ホームズの感傷旅行


脇道堂書店 〜わたしの一冊〜編集者/柏子見

世の中には2種類の人間がいる。
本を読む人間と、読まない人間だ。中にはかつては読んだけど、今は読まない(読めない)という人だとか、いろいろなバリエーションはあるだろうけど、それはそれとして。

うちの姉弟の場合、私は(どちらかといえば)本を読む人間で、弟は(まったく)読まない人間だ。
私と同じく本を読む人間である母は常々「同じ環境で同じように育てたのに、どうしてこうも違うかねぇ」と不思議がっていた。まったくだ。ちなみに父は本を読まない。

ところで、本を読む人間の傍には大抵いつでも本がある。そして、本を読む人間はそこに本があれば読む。私が母の本を読んだのも自然の流れという訳で。

今回紹介するのもそんな一冊。母と私にとって本を読むことは基本的に時間つぶしで、ただ純粋な楽しみなだけなので、小難しい文体や英知との邂逅などはなくてもまったく問題なくて、物語の世界に入り込んでワクワクでき、読んだ後はスッキリサッパリするような推理小説が好ましい。そんな感じなので、うちでは本といえば単行本より文庫本だ。

私の記憶が間違っていなければ、あれは引っ越す前の家(ということは小学校3年生くらい?)。今ではなかなかお目にかかれないダイヤル式の電話(うちのは黒ではなく緑だった)が置かれた棚の下段に無造作に突っ込まれた文庫本の中の一冊が「三毛猫ホームズの感傷旅行」だった。

こうやって本の紹介をすることになるまでその存在自体を忘れていたくらいで、「あのセリフが…」とか「こんな時には今でも読み返す」とか、そういう本ではない(そんな本があれば、そっちを紹介する)のだけれど、今思えば、本との距離感とか、物語とか言葉への興味・関心はきっとこの頃にベースができたんだろうな、と。

実はストーリーはおろかタイトルも覚えてなくて、三毛猫ホームズシリーズという手掛かりで今回ネット検索したところ、そこには懐かしい表紙が。角川文庫版のシリーズの雰囲気のあるイラスト(今回調べたら、北見隆さんというイラストレーターの作品だそう)も見覚えがあったので、何冊か読んだのかもしれないけれど、「絶対これは読んだ」という確信が持てたのが光文社文庫の「感傷旅行」だった。

三毛猫ホームズの感傷旅行/光文社文庫/赤川-次郎

黒いひし形の「パタパタ」と、じっとこちらを見つめる茶色いネコ(三毛?!)。
中身は覚えていなかったけれど、そうそう、この表紙。
小説の話のはずが、ビジュアルが持つチカラを思い知らされたという話になってしまった。

2017.9.21
林 知美

公開日/2017年09月21日



関連記事