20 学問のすすめ


脇道堂書店 〜わたしの一冊〜編集者/柏子見

一万円札の人であり、大学をつくったとか、なんとなく偉い人。わたしにとって福澤諭吉のイメージは、その程度のものだった。そう、この本を読むまでは。

学問のすすめ 現代語訳 (ちくま新書) 新書 /福澤 諭吉 (著),‎ 斎藤 孝 (翻訳)

冒頭は「天は人の上に人を造らず」という有名なフレーズから始まる。要は、人は生まれた時から平等で、みんな同じ権利を持っている、と。さすが諭吉、いいこと言うじゃないか。だけど2ページ、3ページと読み進めるうちに、「わたしの想像してた諭吉じゃない…」という感情がふつふつと湧いてくる。

たとえば、「ひどい政府は愚かな民が作る」という章。(以下引用)——世の中で学問のない国民ほど哀れで憎むべきものはない。知恵がないのが極まると恥を知らなくなる。自分の無知ゆえに貧乏になり、経済的に追い込まれたときに、自分の身を反省せずに金持ちをうらんだり、はなはだしくなると、集団で乱暴をするということもある。これは恥知らずであり、法を恐れない行為である。世の中の法律を頼りにして、身の安全を保って社会生活をしているにもかかわらず、依存するところは依存しておきながら、都合が悪くなると自分の私利私欲のために法律を破ってしまうやつがいる。——

まさに正論。ド正論すぎて「何も言えねぇ」となってしまった。というかこれ、そのまま現代でも言えそうだ。だけど諭吉よ、ちょっと言いすぎじゃなかろうか?ほかにも、和歌や詩を「まったく実用性のない学問」と言い放ち、鎖国や攘夷派を「井の中の蛙」と容赦なく切り捨て、子どもに教育をしない親を「恥も法も知らないバカ者」「国の利益にならず、かえって害」と吐き捨てる。他国との交流の大切さを説いたかと思えば、同業であるはずの学者たちを「西洋かぶれ」とバッサリ。

諭吉にとって、学ぶは正義、学ばないは悪。人はみんな平等だけれど、学ぶか学ばないかで生き方に差がつく。学問こそ、世を生き抜くための最強のライフハックである、というのがこの本の主題であり『学問のすすめ』なのだ。批判的な章では「愚民」「一国の恥」「知ったかぶり」「奇人変人」といった、そこまで言って委員会、的な暴言も少なくない。今だったら、SNSで炎上間違いなしだろう。

それでも不思議と読むのをやめられないのは、諭吉が日本の独立や繁栄について、ものすごく真剣に考えていることが伝わるから。学問だけでなく、法律や税金の意義、男尊女卑の不条理、自己アピールの方法まで、いずれも強烈かつ痛快な諭吉節で語られていて、「なるほど」と頷くことばかりだ。

150年近く前に、現代でも十分に通用する教えを説いていた福澤諭吉、やはりただものではない。改めて、さすが諭吉。まいりました。一万円札に使われるだけのことはある。

★補足:岩波文庫『学問のすゝめ』は著作権フリーのためKindle版を無料で読めるものの、当時の文体は難解。個人的には、ちくま新書『現代語訳 学問のすすめ』をおすすめしたい。「日本最強のビジネス書」とうたった齋藤孝氏による解説も面白い。

2017.11.22
関谷知加

 

公開日/2017年11月22日



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