22 BLACK OUT


脇道堂書店 〜わたしの一冊〜編集者/柏子見

唐突だが自分には2種類の活字中毒の周期がある。

1つめは『陽の周期』。
ご都合主義上等でとにかくハッピーエンドな話が読みたい前向きな周期。2つめは『隠の周期』。
何一つ救いの無い暗い話をひたすら読み続ける鬱々とした周期。

不思議とその二つが混ざる事はほとんどなくて必ずどちらかに偏るから
精神状態が安定している時は読む気が起きないのかもしれない。
どちらの周期にしろ本屋で一度に4〜6冊をまとめ買いしては
ひたすら読み続けることを繰り返すから
お金と収納場所を浪費するので奥さんによく怒られる。

さて、そんな風に読む時は大量に読むのだけれど
そこにドラマチックなエピソードなどは無いので
脇道堂書店で紹介する本は単に『個人的に好きだから』という
薄っぺらい理由でこの本に決めようと思う。
18年位前に色々とこじらせていた『陰の周期』からの一冊。

BLACK OUT(幻冬舎1996年)渡辺浩弐

1999年すでに・・・という某世紀末覇者の様なセリフから始まる本書は
高度に発達した科学が日常生活に溶け込んだ世界で、
分不相応な科学力を手にして歪んだ人々を
ハイテク犯罪と科学捜査部の死闘という形で描いた短編集だ。
全体的に読み手の倫理観に依存している様な部分があり、
犯罪と言っても全部の話が勧善懲悪という訳ではない。

20年以上前に書かれた物語のいくつかは
2017年では現実的なものになっており、
世界の常識や倫理観が少なからず変化した今、
改めて読み直してみると当時とは違った印象を感じた。
(昔の本なので多少の今更感は仕方ないとして)

せっかくなので個人的に好きな話の扉ページをご紹介。

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<夢を食うマシン>ブレイン・スキャニング
1999年すでに・・・人類は自身の睡眠時間をも支配しようとしていた。
睡眠中の脳を微弱電流で刺激することで夢の中に人工的な環境を作り出す事も可能となり、
それはまさに人類が求め続けた新たなバーチャル空間だった・・・。
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睡眠中に脳内で仕事をすれば『睡眠業務手当』がもらえるという
超ブラックな制度が出てくるのだが
寝る時間がもったいないと常々思っている自分としては
何て素敵な世界!と感動した物語。

ちなみにタイトルのBLACK OUTについては作中で主人公の華屋がこう説明している。
『音速機が加速する時に急激なGによって飛行士が一瞬意識を失う事がある。
それがブラックアウトだ。いまあまりにも急激に加速した時代の中で人々はそれに似た体験をしている。
我々は未来は見えても現在この瞬間が見えていないんだ。』

奇しくもここ数年でARやVRの技術が目覚ましく進化している現代も急激な加速と言えるでしょう。
もしかしたら自分達も気づかないうちにブラックアウトしているかもしれないですね。

2017.12.6
矢島 大

公開日/2017年12月07日



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