No.26 ディーティーピー なかった時代の 武勇伝


脇道ちょっとGPT川柳編集者/

製図板に取り付けたドラフターちう製図機を使って、ロットリングやカラス口(※)で一本いっぽん線を引いておった。

文字はまずシャーペンで手書きじゃ。文字数の多いブロックには線だけ引いてだいたいのアタリを取っておくか、適当な印刷物のブロックをコピーしたものを貼っておく。

だいたいの配置が固まったら、次は写植の手配じゃ。社食ではないぞ、写真植字のことじゃ。
紙に直筆で書くか、ライターがワープロで打ち出すかした原稿に、書体とサイズ、行間、字詰めを指定する。

サイズ指定はptではないぞ。Qじゃキュー。1Qが1mmの1/4、Quarterの頭文字を取って「Q数」と言う。
指定ができたら、それを写植屋さんに発注じゃ。PDF?メール?ないないないない、FAXに決まっておるじゃろが。

上がりの連絡をもらったら即、写植屋さんに走る。
受け取った印画紙には、すべてのコピーがまとめて印字されておる。それを複写、ブロックごとに切り離した紙片をペーパーセメントちう接着剤で貼り付けていくのじゃ。
字詰めの気に入らない部分は一文字ひともじ切り分けて手詰めする。これがデザイナーのこだわりじゃ。

ペーパーセメントには、ボトルタイプとスプレータイプがある。
ボトルタイプはキャップに付いた刷毛で薄くうすーく塗り広げる。ボトルのセメントがなくなったら徳用缶から補充するのじゃが、こぼすと大惨事になるので注意が必要じゃ。
その点、スプレータイプは手軽に使えて便利じゃの。ただし、標的以外にもセメントが飛散する。床やデスクに飛散すると悲惨なことになるから、各々の足元にスプレーブースという段ボール箱を置いておる。言うてもブースの外まで散るので、結局のところ周りの床も微妙にニチャニチャしておるのじゃがな。

セメントは弱粘性なので、細かいパーツは剥がれやすい。
前々の職場のセンパイなぞ、帰宅して鏡を覗いたら、髪に「です。」3文字だけの小さな紙片がくっついておって、これはどの案件?どの部分?と焦ったそうじゃ。

写真はこれまたたいへんで、当時はフリー素材や画像検索なんて便利なものはない。
他の印刷物や、普段からストックしておいたスクラップから選んだ写真を拡大縮小コピーする。儂のいた会社にはカラーコピーなぞ高等なマシンはなかったから、近所のDPE店やら文具店まで大量コピーしに行っておったものじゃ。ミスコピーも当然勘定に含まれてしまうし、社に戻ってから倍率を間違えていたことに気付いた日にゃ、また撮りなおしに行かねばならない。失敗のないよう、一枚いちまい成功を願いながら撮るのじゃよ。

とりあえず、ここまでがレイアウトの手順。どうじゃ?これだけでも気の遠くなるような作業じゃろ?

さぁて次は、カラーカンプ作りじゃ。
カラーペーパーにクロマテック、オーバーレイフィルム、まだまだいろんな道具や言葉が出てくるぞ。
このあとも版下作成、色指定、入稿準備とまだまだ作業は続く。

……結構長く話したな。そろそろ眠くなってきた。
儂も若い頃は「また徹夜しちまったぜ」「3日間家に帰ってないぜ」みたく自慢げにドヤってたものじゃが、最近はもう夜鍋なんか無理じゃ無理無理。
続きはまた次の機会にな。
さぁさぁ皆、仕事に戻るがよい。

え?キミらも帰るって?

なんじゃなんじゃ今の若い衆は。
昔のデザイン事務所じゃ、明け方になると床やらソファやら至る所でスタッフが寝……あれ?もう誰もおらんわ。

※ロットリングやカラス口がどういう物かは、No.22『カラスグチ 細さ命の 非合理さ』をご参照ください。

2023年12月20日
小倉 賢治

公開日/2023年12月20日



関連記事