No.16 朝やけに筆は進まず天仰ぐ


脇道ちょっとGPT川柳編集者/

こんなはずじゃなかった・・・!
何十回も再現したシチュエーションなのに、そんなことを呟いてしまう。コピーのことだ、企画のことだ。明日、ではなく今日の昼イチにアイデア持ち寄り。まだ何も書けていない、何も生み出していない。正確には“何も”書けてない訳じゃない、画面に打ち込んだひいき目にみても冴えない思いつきと意味不明のフレーズをクリエイティブと呼べるなら。
こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃ・・・!

さかのぼること、1週間前。
社内のオリエンを聞く。内容は分かる、意向も分かる。ぼんやりと、解決の糸口も見えている。こういう時、いきなりコピーや企画を考えてはいけない。まずはクライアントの於かれている状況、市場、競合など、情報を揃えるのが先決。アイデア出しまで少し猶予もある。明日から少しずつ、空き時間を見つけて取り組もう。

3日間が、経過。
あの後急にホカゴトが忙しくなり、例の案件は完全に後まわし。そろそろ本腰、というか手くらい付けないとさすがにまずい。仕方がないので、スケジュール優先。情報収集はオリエン内容を信じて、企画・コピー出しの本丸に取り掛かる。
A4用紙へ、頭の中のグチャグチャをすべて吐き出す。書きなぐった言葉やイメージに、うっすらと“使えそうな”アイデアの種がちらほら。1時間の集中で、はやゴールが見えてきた。今日はこの辺にして、明日クリアな頭でもう一度考えれば、もっと客観的な視点で、いい企画が思いつくだろう。

さらに3日間が、経過。
気がつくと、アイデア出しは明日に迫る。たしか俺いくつか企画思いついてたよなと、A4用紙をもう一度確認してみる。うん、これは100パー使えないです。
今宵もオールナイト確定。働き始めて十年以上が経つけれど、未だにアイデア出しの前日は同じ羽目に陥る。いつまで経っても成長のない自分にため息をつきながら、帰路に着く。

帰宅。食事を済ませ、なぜかふつうに酒も飲んだ後、再度PCに向かう。神経を集中し、あれこれ思考を張り巡らせる。するとまた少し、アイデアのヒントが生まれてくる。この案とこの案を膨らませば、それなりにカタチになりそうだなと、明日のめどが立ってくる。
・・・この辺りで少し仮眠をとるべきか、と思う。まだ余力はあるけれど、睡眠不足で粘るよりは、少し眠ってスッキリしてからトライした方がいい気がする。2時間だけ眠ることに決めて、畳の上でごろ寝する。

ここで場面は、冒頭に戻る。

あの後、結局たっぷり5時間の熟睡を享受し、引き換えに貴重な作業時間を失った。子どもが起きてくるまであと2時間弱。まだ何も書けていない。1週間も時間があったのに、こんなはずじゃなかった・・・

そもそもどうして俺はコピーライターなんてしんどいだけの職業を選んだんだろう。最初の会社を追い出された時点でおとなしく地元に帰って母さんのいう通り公務員になっていれば、今頃はもう少しラクな人生を歩めていたのではないか。振り返れば、小学校の作文コンクールと、壁新聞。あれでちょっと周りから褒められたからって自分に文章力があるなんて過信したのが間違いだったのだ。そもそも人生なんていうものは・・・

思考が脱線し始めたので、もう一度画面へ。さっきは100パー使えないと切り捨てた案を、何とか言い回しの調整で提案できるレベルまで取り繕えないか、悪あがきをする。パワポで書体を整えれば少しでもよく見えるかしら等とコスいことも考える。ふと顔を上げる。白々と明ける東の空が、タイムリミットを知らせる。アイデアは未だ降りてこない。ここまでか・・・。

朝やけに筆は進まず天仰ぐ

一言でいえば自業自得。やり場のない不甲斐なさを抱え、ひとは句を詠むのかもしれない。

2023年10月11日
弘嶋 賢之

公開日/2023年10月11日



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